回折イメージング

Diffractive Imaging
Diffractive Imaging
  • 結晶化を必要としない、原子分解能イメージング

 回折イメージングとは、左図に示すように、実験によって計測した回折パターン(左)を元にして、計算機による数値計算によって実像(右)を得るイメージング手法です。

 回折イメージングは物理学の対象である波の回折現象と情報科学の対象である非線形最適化・推定の問題に関して、全く異なる分野の深い理解を必要としています。当研究室では、前者に対しては電子顕微鏡による実験的研究を、後者については情報の混合ダイナミクスの観点から理論的な研究を進めています。 Read More

原子分解能イメージング

Single Atomic Resolution
Single Atomic Resolution

 右図(上)は、加速電圧30 kV の電子回折パターンを元に得られた実像の例です。全体は細長いロッド状の形をしており、その中に、コントラストの異なる微細な構造が見られます。白枠の領域を拡大したものが下(左)の図です。詳細な解析の結果、この図は、下(右)に示したようにシングルカーボンナノチューブの上と下の炭素6員環ネットワークを2つ重ねたものであり、炭素原子一つ一つを単独で識別できる0.12 nm の分解能で、原子の重なりを反映していることを定量的に明らかにすることができました。

 (この研究は、日立製作所との産学連携共同研究によって行われたものです。 えんじにあRing、 Hitachi Review  )

 ナノチューブ、グラフェンなどのカーボン素材に加え、リチウム、ボロン、窒素、酸素などの軽元素のイメージングが期待されています。ナノカーボン材料はLiイオン電池や燃料電池の電極材として産業応用が盛んに研究されており、シリコンに代わる半導体材料としても注目されています。さらにタッチパネルの電極としても、その応用に関心が集まっています。これらの軽元素材料は、原子分解能で高分解能イメージグを行う際に、ビーム照射によるダメージを受けやすいことが大きな問題となっています。また、DNA、タンパク質などのバイオマテリアルは、軽元素を主な構成要素としていますが、これらを結晶化することなく、イメージングする基本技術が強く求められています。

 電子回折イメージングは、生命・情報・環境・エネルギーなど、広範な分野の材料に対して、低ダメージで3次元原子分解能を実現できるイメージング技術として期待されています。

グラフェン上のDNA

  1953年にワトソン・クリックによって、DNA の2重らせん構造が明らかにされたことは、生物を原子・分子のスケールで解明することを目指す分子生物学の出発点になったと言えます。DNAの構造解析には、DNA結晶から得られたX線回折パターンが決定的な役割を果たしたことが良く知られています。しかし、結晶化されていない、単一のDNAを原子分解能で3次元イメージングできた例はこれまでにありません。結晶化できないために、構造未解明なナノスケール生体物質群が大量に存在しており、非結晶物質の3次元原子分解能構造解析手法の確立は、サイエンスに残されたとても大きな挑戦的な課題であると言えます。このような背景のもと、回折イメージングの手法による単一DNAの3次元原子分解能イメージングを1つの研究テーマとしています。具体的には図に示したような単層グラフェン上のDNAを3次元でイメージングすることに挑戦しています。

理論的研究

Theoretical Works
Theoretical Works

 一見、にわかに登場したように見える回折イメージングの手法は、位相回復と呼ばれる基本的な問題を含んだパラダイムに立脚しており、新たな問題提起をしています。アルゴリズム、情報量、逆問題、拘束条件、解の一意性、MEM(最大エントロピー法)との関係など、位相回復に関する一連の古くて新しい残された問題があります。我々は、これらの問題に対して、図に示したフーリエ変換で結ばれた二つの関数空間の構造を理解することが重要であると考え、理論的な研究を進めています。International Journal of Information and Management Science.21.pp.1-11.2010

 

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