グラフェン上のナノグラフェン

 化学気相成長法(CVD法)で得られるグラフェンをTEMグリッドに転写した場合、グラフェンの表面には余計な付着物(コンタミネーション)が存在することが知られています。またTEM観察中にも観察視野にコンタミネーションが付着する現象もよく知られています。グラフェンが初めて原子分解能観察された際に付着したコンタミネーションは炭化水素鎖からなると指摘されていましたが、詳細な構造は明らかになっていませんでした。我々は単層グラフェンにコンタミネーションが付着する様子をSTEM観察した結果、付着したコンタミネーションは層状構造を保ちながら積層していることを明らかにしました。電子エネルギー損失分光(EELS)測定からはコンタミネーションが7層以上積層した場合には構造がよりアモルファスに近づくことを示しました。単層グラフェンに2層目のナノグラフェンが成長する過程を原子分解能でその場観察することに成功し、六員環以外に五員環、七員環などの欠陥構造や下地の単層グラフェンを構成する六員環からわずかにずれて歪んだ六員環を有する構造であることがわかりました。

単原子スパッタリング

 単原子は互いに凝集しやすく、これまでの技術では選択的に得ることが難しい材料とされてきました。当研究室では薄膜作成技術としてよく知られているプラズマスパッタリングを応用し、Free-standing グラフェン上にPtの単原子分散体を作成することに成功しています。左図は収差補正透過型電子顕微鏡を用いたHAADF-STEM(High-angle annular dark-field scanning transmission electron microscopy)像です。グラフェンは炭素原子1層の2次元物質ですが、電子散乱断面積が既存のサポート材料に比べて非常に小さく、観察ターゲットを高分解能で観察することが可能になります。明るい輝点がそれぞれPt単原子であり、薄膜形成よりもごく短時間のスパッタリングを行うことで99パーセントの選択率で単原子が得られることが明らかになりました。この結果はバルクのスパッタリングターゲットから単原子を取り出すことが可能なことを示しています。STEM像の強度解析の結果、ほとんどのPt単原子はナノグラフェンのステップエッジに吸着していることがわかっています。これはPtが単原子状態を保つためにナノグラフェンが非常に重要な役割を果たしていることを示すものです。

Pt単原子の原子配置と電子状態

 金属単原子はバルク金属、ナノ粒子に比べて単原子が吸着している担体に大きく影響され、異なる電子状態を有することが知られています。そのため単原子と担体との吸着構造を原子レベルで明らかにすることは非常に重要です。右図は当研究室が示したグラフェン上Pt単原子の吸着構造例です。整然と六員環が並んだグラフェンの面内には数原子しか吸着していません。我々は単層グラフェンと2層目のナノグラフェンとのステップエッジに吸着したPt単原子の原子配置を明らかにし、X線光電子分光(XPS)測定の結果、グラフェン上に形成したPt単原子はバルクに比べて+2.0eVの大きなコアレベルシフトを有することがわかりました。得られた原子配置を元にした電子状態の理論計算と比較すると実験結果とよく一致することがわかり、Pt単原子の5d-xy軌道の電子がグラフェンの炭素原子と強い相互作用をすることでコアレベルのシフトが起こっていることを明らかにしています。

 

関連情報

  • Y. Maehara, K. Yamazaki, K. Gohara:
    Nanographene Growing on Free-standing Monolayer Graphene,
    Carbon, Vol. 143, pp. 669-677, 2019.
    doi:10.1016/j.carbon.2018.11.025
  • K. Yamazaki, Y. Maehara, C. Lee, J. Yoshinobu, T. Ozaki, K. Gohara:
    Atomic Structure and Local Electronic States of Single Pt Atoms Dispersed on Graphene,
    J. Phys. Chem. C. Vol. 122, pp. 27292-27300, 2018.
    doi:10.1021/acs.jpcc.8b04529
  • K. Yamazaki, Y. Maehara, R. Kitajima, Y. Fukami, K. Gohara:
    High-density Dispersion of Single Platinum Atoms on graphene by Plasma Sputtering in N2 Atmosphere,
    Appl. Phys. Express, vol. 11, 095101-1-4, 2018.
    doi:10.7567/APEX.11.095101