構造化した水としては0℃、1気圧でできる氷がもっとも普遍的ですが、メタンや二酸化炭素などのガスがあると、クラスレートと呼ばれる固体になります。クラスレートはガスの種類によって異なりますが、低温、高圧下で安定な物質です。
では、クラスレートと細胞の接点とはなんでしょうか。
1940年代に、潜水症の研究からガスによる麻酔効果の研究が始まりました。1946年にXeに全身麻酔効果があるとわかり、様々なガスによる麻酔効果が調べられました。その結果1961年、L. PaulingとS.L.Millerはそれぞれ独自にクラスレートが神経細胞の信号伝達を阻害し、全身麻酔を引き起こすといった作用機序に関する研究を発表しました。全身麻酔は医療現場で必須の技術ですが、現在でもなぜ麻酔ガスが全身麻酔を起こすかについては議論が続いている、古くて新しい問題なのです。
私たちは、培養細胞にクラスレート生成ガスを添加し、ガス分子がどのように細胞の活動に影響を及ぼすか調べる研究を行っています。
研究対象
電気信号を使って情報のやり取りをしている2種類の細胞、ニューロンと心筋細胞を用いて、細胞の活性や電気信号がクラスレート生成ガス加圧下でどのように変化するか調べています。
細胞間の信号伝達に対するガスの効果
Xeガスを神経細胞ネットワークに作用させると、細胞の活性が抑制されて全身麻酔が起こると考えられています。しかしガスによる全身麻酔の作用機序については、60年以上も多くの研究者が取り組んでいますが、いまだに明らかになってはいません。
私たちは、細胞の発する信号を計測しつつガスを印加することのできる実験系を構築し、研究に取り組んでいます。
ガスが細胞に及ぼす影響
窒素ガスやXeガスが麻酔効果を示すように、他のガスでも細胞に影響を及ぼすことが考えられます。
そこで、様々なガスを印加した時の細胞の活性の変化などについて調べています。
クラスレートと細胞に関する成果
T. Uchida, A. K. Sum: “Raman spectroscopic measurements on DEPC liposome: phase transition observation under Xe-gas pressure”, 低温科学, 71, 105-110, 2013.
Uchida, T., Suzuki, S., Hirano, Y., Ito, D., Nagayama, M., Gohara, K.: “Xenon-induced inhibition of synchronized bursts in a rat cortical neuronal network”, Neuroscience, 214, 149-158, 2012. (DOI: 10.1016/j.neuroscience.2012.03.063)
Uchida, T., Nagayama, M., Taira, T., Shimizu, K. and Sakai, M., Gohara, K.: Optimal temperature range for low-temperature preservation of dissociated neonatal rat cardiomyocytes, Cryobiology, 63 (3), 279-284, 2011. (DOI: 10.1016/j.cryobiol.2011.09.141)