細胞の活動に対する水の構造化、ということで一番関係するのが細胞の凍結保存技術でしょう。精子や卵子の凍結保存や臓器保存など、凍結技術に対する期待も近年高まっています。私たちは、これまで凍結保存が困難であるとされてきたニューロンや心筋細胞に対して、凍結保存の研究を行っています。

ニューロン
ニューロン
心筋細胞
心筋細胞

ニューロンや心筋細胞は、電気信号を介して情報伝達を行う特殊な細胞です。そのため細胞内外での物質のやりとりが頻繁で、細胞凍結のような環境変化に対して敏感です。そのため細胞活動に対する水の役割を観察するのにとてもよい対象だと考えています。

また私たちの研究室ではニューロンや心筋細胞に関する研究を進めているので、有効な凍結保存技術が開発されれば研究試料の確保に非常に有益です。

細胞内で水は、スープのように生命活動に必要な物質を溶かし込んでいます。またその水は、細胞内で起こる様々な化学反応に関係していると考えられています。この水が凍ると、中に溶けていた物質の多くは氷から追い出されてしまい、その機能が失われてしまいます。また水から氷になるとき体積が9%も増加しますので、細胞が破裂する恐れがあります。

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細胞の凍結保存技術

DMSOで凍結・解凍したニューロンを培養した結果
DMSOで凍結・解凍したニューロンを培養した結果
顕微鏡像(ニューロン様細胞を確認)
顕微鏡像(ニューロン様細胞を確認)
自発発火電位を測定
自発発火電位を測定
私たちの研究は、細胞がその機能を保持したまま活動を休止し、解凍後に活動を再開できるような凍結保存技術の確立を目指しています。凍結保存が困難な細胞腫は、他の細胞とどこが違うのか、どのようにすれば普遍的な保存技術ができるのか、といったことを「細胞と水」という立場からアプローチしています。

 

 

氷結晶成長の制御技術

トレハロース水溶液(35wt%)の凍結活断レプリカ像
トレハロース水溶液(35wt%)の凍結活断レプリカ像
トレハロース濃度と氷結晶粒径との関係
トレハロース濃度と氷結晶粒径との関係
凍結保護剤は、生体分子と作用して凍結時の物理的・化学的損傷から守る働きをしている物質です。それと同時に、氷結晶の成長も抑制していると考えられています。私たちは、凍結保護剤がどのような仕組みで細胞を凍結損傷から守っているのかを明らかにしたいと思っています。

 

 

細胞の常温保存技術

凍結させずに細胞を保存するには、どうしたらよいか?私たちは、凍結保存ばかりでなく、常温での細胞保存技術にも取り組んでいます。
  • 分散心筋細胞は、20度以下にすれば保存が可能であることを発見(Uchida et al., Cryobiology, 63, 279, 2011)
  •  分散心筋細胞の保存に対するガス印可の効果は、ガス種によって異なることを発見(奥平 他, 低温科学, 71, 81, 2013

 

細胞保存に関する成果

奥平俊樹,永山昌史,郷原一寿,内田努:「ラット心筋細胞の常温保存研究 ―ガス印加の影響―」, 低温科学, 71, 81-89, 2013.

内田努, 宮村謙一郎, 永山昌史, 郷原一寿: 「Dimethyl sulfoxideによる分散ラット心筋細胞の凍結保護機構の実験的検討」, 低温生物工学会誌(Cryobiology and Cryotechnlogy), 58 (1), 59-63, 2012.

Uchida, T., Takeya, S., Nagayama, M. Gohara, K.: “Freezing properties of disaccharide solutions: inhibition of hexagonal ice crystal growth and formation of cubic ice”, Crystal Growth, Book 2, InTech-open access pub., Chap. 9, 203-224, 2012. (DOI: 10.5772/29694)

Uchida, T., Nagayama, M., Taira, T.,Shimizu, K., Sakai, M., Gohara, K.: “Optimal temperature range for low-temperature preservation of dissociated neonatal rat cardiomyocytes”, Cryobiology, Vol. 63 (3), 279-284, 2011. (DOI:10.1016/j.cryobiol.2011.09.141)

Uchida, T. and Takeya, S.:“Powder X-ray diffraction observations of ice crystals formed from disaccharide solutions”, Phys. Chem. Chem. Phys., Vol. 12 (45), 15034-15039, 2010. (DOI: 10.1039/C0CP01059F)

宮村謙一郎, 永山昌史, 郷原一寿, 平敏夫, 清水恭子, 酒井雅人, 内田努:「ラット心筋細胞の凍結保存におけるジメチルスルホキシドの有効性評価」, 低温生物工学会誌(Cryobiology and Cryotechnlogy), 56(2), 111-117, 2010.

Uchida, T. Nagayama, M. and Gohara, K.: “Inhibition Process of Ice Crystal Growth in Trehalose Solutions: Interpretation by Viscosity Measurements using Dynamic Light Scattering Method”, J. Crystal Growth, Vol. 311 (23-24), 4747-4752, 2009. (DOI: 10.1016/j.jcrysgro.2009.09.023)

Motomura, J., Uchida, T., Nagayama, M., Gohara, K., Taira, T., Shimizu, K. and Sakai, M.: “Effects of additives and cooling rates on cryo-preservation process of rat cortical cells”, in “Physics and Chemistry of Ice (Ed. by W. F. Kuhs)” (Proc. Int. Conf. on Physics and Chemsitry of Ice,Bremerhaven, Germny, July 24-28, 2006), Royal Society of Chemistry, London, pp, 409-416, 2007.
<Abstract>: Reports on Polar and Marine Research (Berichte zur Polar- und Meeresforschung), 549, 121, 2007.

Uchida, T., Nagayama, M., Shibayama, T. and Gohara, K.: “Morphological investigations of disaccharide molecules for growth inhibition of ice crystals”, J. Crystal Growth. Vol. 299 (1), 125-135, 2007. (DOI: 10.1016/j.jcrysgro.2006.10.261)

内田努、本村寿太郎、永山昌史、郷原一寿: 「初代ラット大脳皮質由来神経細胞の凍結保存条件に及ぼす凍結速度依存性」, 低温生物工学会誌(Cryobiology and Cryotechnology), 53(2), 161-166, 2007.

「生命と水~地球・生物・細胞にとっての水~」(2006年度工学研究科公開講座~くらしと応用理工学~)
(配信終了)